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次世代サービス最前線ブログ 小池良次のシリコンバレー情報通信

ICTフロント・シーンで展開される多様なサービスやテクノロジーを
小池良次がシリコンバレーから探訪していきます。

 

2009年を振り返る。 米国IT業界の5大トレンド

2009年12月9日

アメリカはホリデーシーズンに突入し、テレビや経済紙では2009年を回想するニュースをよく目にするようになってきた。そこで私も通信業界の1年を振り返り、注目すべきトレンドのトップ5をまとめてみたい。


── 第5位:電話会社のIPTV躍進

AT&TとVerizon Communicationsが放送サービスに参入して3〜4年がすぎ、今年はIPTVが“躍進の年”を迎えた。参入当初は、電話会社の放送サービスに疑問を持つ意見も多かった。しかし、徐々に衰退する固定電話ビジネスに代わり、IPTVはいまやアメリカの電話会社にとって重要なサービスになろうとしている。

 AT&TのU-verseサービスは今年、毎期24万から28万というペースで加入者を伸ばし、9月末で181万7000加入に達した。同様に、Verizon社のFiOS TVも毎期19万から30万ペースで増え、270万8000加入(2009年9月末)となった。たった4年間でVerizon社はCATV業界6位のBright House Networksを追い越し、AT&Tも同7位のMediacom Communicastionsを超えている。もちろん、ネットワーク整備に巨大な投資を続けているためIPTVビジネスは赤字だ。しかし、着実に加入者を伸ばしていることもあり、証券アナリストはここ2〜3年で黒字化すると期待している。

 IPTVのサービスが充実するにつれ、CATV業界には危機感が広がっている。FTTHを展開するFiOS TVは、50Mbpsの高速インターネット接続に加え、Widgetによるサービス開発や電子番組案内などの機能充実を図っている。また、U-verseは、複数の部屋で番組が楽しめるマルチ・ルーム・サービスの充実を進めているほか、iPhoneとの連係サービスも注目されている。

 従来、CATV業界ではHFC(光同軸混合網)とtru2wayという双方向規格で次世代サービスを検討してきた。しかし、電話会社が着々と進めるサービスの充実に、CATV業界は基本方針の見直しが始まっている。もちろん、数年先の話だが、HFCを捨て“Cable IPTV”や“Cable FTTH”への移行議論が熱気を帯びてきた。2010年、米国のビデオ配信ビジネスは大きな変化が起こるかもしれない。


── 第4位:加速するGoogleの通信戦略

 2009年、Googleの携帯OS“Android”がようやく離陸した。Androidは、米国で躍進を続けるApple社のiPhoneに対抗できると注目を集めてきたが、なかなか端末が登場しないこともあり苦しい状況が続いた。契機は、9月に発表したMotolora製の“CLIQ”あたりだろう。今年後半に入り、T-Mobile USAとVerizon WirelessでAndroid携帯が相次いで登場した。ホリデーシーズンにはいり、iPhoneに対抗しようと、Verizon Wirelessは“DROID(ドロイド)”の名称でAndroid携帯のコマーシャル攻勢を掛けている。

 一方、Google Voiceも大きな話題となった。同サービスは、自宅、会社、出先、携帯などの電話を統合して、留守録や転送などを行えるサービス。米国内は無料のVoIP電話もついている。このサービスは政府にやっかいな問題を持ち込んだ。Google Voiceの無料電話は、料金の高いパーティー・ラインや僻地などには繋がらないようになっていたからだ。これはGoogleがコストを低く抑えるために行った処置だが「電話サービスの基本は、誰とでもいつでもつながる」ことを基本としてきた通信行政に大きく反する。連邦通信委員会(FCC)は、Google Voiceの調査に乗り出すとともに、一般からの意見聴取をおこなった。Google側も繋がらない電話番号を100件以下に減らす改善処置をおこなったが、ユニバーサル・サービスの見直しが進む中、Google Voiceの波紋は大きく広がった。

 また、Googleが10万人の商業テストを展開しているGoogle Waveも話題となっている。このサービスは電子メールにかわる新たな通信手段としてGoogleが提案しており、複数のユーザーがひとつのコミュニケーション・サーバーにアクセスすることでリアルタイムでコミュニケーションができる。その通信手順などはオープン・ソース/オープン・スタンダードとして公開されている。Googleは広くWaveを普及させたいと考えている。

 来年も、Googleは既存の通信政策に新風を送り続けていくことだろう。

── 3位:Social Computingの台頭とクラウド・ブーム


 米国のクラウド・ブームは新たな段階に入ろうとしている。当初、クラウドといえば“クラウド・コンピューティング”を指し、仮想化データセンターによる企業ITシステムのコストダウンが主たる目的となっていた。クラウド・ブームも3年目になりAmazon EC2やGoogle App Engineのようなパブリック・クラウドから、大手システム・インテグレータが提唱するプライベート・クラウドへと広がりをみせている。

 ただ、注目したいのは、企業向けアプリケーション・ベンダーが次々とクラウド分野に参入を開始し、本格的なSaaS時代へと足を踏み入れようとしていることだ。こうした動きはクラウドが得意とするCRM(顧客管理システム)やHR(人事管理システム)などの分野で活発化している。また、企業コミュニケーションの分野でもクラウドの波が広がっている。コールセンターのほか、中小企業を中心にホスティングPBXによる電話サービス、Unified Communicationsと一体化したクラウド・コミュニケーションをエリクソンなどが提唱しだしている。

 一方、一般消費者に眼を向けると、ソーシャル・コンピューティングが大きな注目を浴びた。特にTwitterは、新たなソーシャル・コミュニケーションを切り開き、米国を中心に利用者が急増した。また、Facebookに代表されるSNS(Social Networking Service)も加入者を伸ばし続け、SNSやTwitterをベースにした企業マーケティングがブームとなっている。

── 2位:本格化するLTE/4Gネットワーク

 携帯電話業界では今年、LTE(Long Term Evolution)/4G旋風が吹き荒れた。昨年から世界各国の携帯事業者がLTEの商業実験を開始し、徐々に技術が成熟してきたことを受け、米国ではVerizon Wirelessが2月にLTE機器の調達先を発表し、2010年には全米30都市でサービスを開始すると宣言した。また、AT&Tも2011年中頃に同サービスへの移行を狙っており、次世代ワイヤレス・ブロードバンドの主役としてLTE/4Gは脚光を浴びた。

 ただ、LTEではまだまだ解決すべき課題が山積している。高速サービスを実現するためLTEでは広帯域を確保する必要があり電波が不足している。このままではT-Mobile USAなどが、周波数不足のため4Gサービスを実現できない可能性も出てきた。FCCは無償で提供したデジタルTV放送用周波数の一部を返却させ、次世代ワイヤレス・ブロードバンドに割り当てることも検討している。また、LTEではマクロセルではなく、マイクロセルと呼ばれる小さな基地局を多数設置する方式になる。しかし、基地局の増設は地域住民との調整や用地の確保などの問題があり、規制緩和が必要と言われている。

 そのほかLTEでは、All-IPになるため、音声通話サービス用に新たなスタンダードが必要となる。現在、欧米の携帯事業者や機器ベンダーが様々な方式を提案しているが、その規格統一も重要となっている。

 ビジネス面を見ると、LTE時代を前に米国の大手はM2M(Machine to Machine Communication)分野に力を入れだした。LTEにより高速化・大容量化が進めば、携帯端末だけでなく、ネットワーク家電など各種ディバイスにも用途が広げられるためだ。AT&TやVerizonグループは、大手ベンダーとジョイント・ベンチャーを設立し、電子ブックやスマート・メータ(遠隔電力検針)などの用途開発に乗り出している。

 2010年は、いよいよLTE元年となるだろう。


── 1位:オバマ政権登場で、変わる米国の放送通信行政

 今年最大の出来事は、バラク・オバマ大統領の登場だろう。新大統領により、FCCや連邦議会を中心とする放送通信行政は大きく変わった。

 従来のCATV大手、電話大手に対する規制緩和の方針は消え去り、ネットワーク中立性ガイドラインの強化など一連の方針転換が明確となった。中でも2010年2月までにFCCがまとめる「National Broadband Plan」は注目を浴びている。これはネットワークのオープン化、ユニバーサル基金制度の改革を軸に、従来の通信行政を大きく変えると予想されている。

 また、2010年は「メディア資本集中規制」見直しの年となる。既に、同見直しのためFCCは公聴会を開催しているが、広告収入の減少が続くテレビ業界を救うため、テレビ局の所有規制が緩和される方向で議論が始まった。このほか景気対策法をベースにした助成金獲得の動きも、これから本格化するだろう。

 米国の放送通信行政は、来年、大きな変革の年を迎える。


◇◇◇

 さて、2009年を振り返れば「揺れ悩むWiMAXサービス」「カナダ・ノーテル社の破綻と売却劇」「iPhoneをめぐるAppleとAT&Tの苦悩」なども重要な話題だった。番外編として、最後にちょっとだけ触れてみよう。

 Clearwire社は、米国で唯一の広域モバイルWiMAX事業者だが、ネットワークの建設資金に悩んでいた。2009年11月、既存株主を軸に15億ドルの追加資金を得て、なんとか整備を継続することになった。2010年、WiMAXは正念場となるだろう。

 一方、大手通信機器ベンダー、ノーテル社の破綻は企業電話分野、携帯電話分野などあちこちに影響を与えた。部門売却に際しては、日本企業も一部参加して話題を集めたが、通信機器業界の再編は今後も続きそうだ。

 AppleとAT&TはiPhoneを巡って、FCCとの対応に振り回された。iPhone端末の独占契約は、地方弱小キャリアのスマートフォン不足を招き、FCCはその契約慣行の改善に乗り出した。また、iPhone向けGoogle Voiceアプリケーションでは、その承認を巡ってFCCとAppleがつばぜり合いを演じた。結局、3Gデータ・サービスでのVoIPをAT&Tが認める声明をだし沈静化したが、今後の無線ブロードバンド・サービスにとって、大きな一石を投じたことになる。

 こうして見ると、2009年も様々な出来事があった。さて、読者の皆さんにとっては、何が一番大きなトピックだったのだろうか。

 
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