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次世代サービス最前線ブログ 小池良次のシリコンバレー情報通信

ICTフロント・シーンで展開される多様なサービスやテクノロジーを
小池良次がシリコンバレーから探訪していきます。

 

「どこでもテレビ」は米国のネット・メディアを変えるか

2009年10月20日

2009年1月、米大手メディア、タイム・ワーナーのJeffey Bewkes氏はChairman of the Boardに就任した。前任のDick Parsons氏に代わって名実ともにタイム・ワーナーの経営を任された同氏は“TV Everywhere”プロジェクトを声高に提唱している。日本ではあまり知られていないが、この1年、米国のメディア業界では大きな変化の波が打ち寄せている。


──新たなインターネット配信の試み

では“TV Everywhere”とはいったい何だろうか。

簡単にまとめると、同プロジェクトはCATVや衛星放送の契約者が同じ番組をインターネットを通じて視聴できるようにする。

たとえば、我が家ではコムキャスト社(CATV最大手)のデジタル放送をベースに、プレミアムでスポーツ・パッケージを契約している。全米プロフットボールやプロ・テニスなどを専用チャンネルで楽しめるのはよいが、出張に出かけると見逃してしまう番組も多い。“TV Everywhere”はそんな悩みを解決してくれる。出先からインターネットを使って、自宅にいるときと同じように番組を楽しめるからだ。

もちろん、同サービスでは、CATVの基本契約を持っていなければならず、契約内容の範囲内の番組しか楽しめない。それでもCATVと同じ内容を出先からインターネットで楽しめれば、これほど重宝なことはない。


──なぜ、インターネットに番組を流すのか

次に“TV Everywhere”の背景を考えてみよう。

現在、米国のCATV業界ではテレビ契約をやめケーブル・モデムだけを使う“cord-cutting”という現象が広がっている。CATVといえば、放送を基本に、ブロードバンドやケーブル電話を抱き合わせて、顧客単価の向上と解約率の低減を狙うトリプル・プレーで業績を伸ばしてきた。しかし、地域独占を背景に強引に顧客単価の上昇へと誘導するCATV事業者に対して、消費者は不満をためている。そこで、高価なビデオ契約をやめてブロードバンドでインターネット放送を楽しむ“cord-cutting”が若い視聴者の間で徐々に芽生えてきた。確かに、月間1万円から1万5千円という費用は、若い世代にとって大きな負担と言える。

また、Vudu、Roku(Netflix社)、Apple TV、Sezmi、BoxeeなどのブロードバンドSTB(セット・トップ・ボックス)もこうした動きを促進している。これらテレビとブロードバンドの間につなぐ機器をOTT-Videoと呼ぶが、CATV並の番組をそろえる事業者もいる。もはや、CATVだけがプレミアム番組を配信する時代ではなく、YouTubeやHulu、ネット・レンタルなどがそろったインターネット放送が十分な番組を供給できるようになっている。

インターネット放送への移行が進めば、無料ニュースで経営不振に陥った新聞業界と同じ運命をCATV業界もたどるだろう。そこで急成長するインターネット放送に対抗する手段として提唱されたのが“TV Everywhere”といえる。


──いよいよ実験サービスが始まる

ケーブル業界最大手のコムキャスト社は、この夏から“TV Everywhere”の実験を開始した。対象は5,000世帯で、認証システムの運用確認が主な目的だ。同プロジェクトでは、インターネット経由でアクセスしてきたユーザーが、本当に自社の契約者かどうかを確認することが重要になる。しかし、認証手続きを複雑にするとユーザーが使いにくい。簡単で確実な認証システムが成功の鍵となる。

また、CATV業界2位のタイムワーナーケーブル社も同様の実験を計画している。同社は5,000世帯を対象に、NBC Universal社の「Syfy channel」、Time Warner社の「TNT」「HBO」「TBS」、Cablevision Systems社の「AMC」「IFC」「Sundance Channel」、BBC社の「BBC America」、CBSとDiscovery Communications社などのコンテンツをそろえる。

そのほか“TV Everywhere”の動きは、携帯向けビデオ配信に力を入れてきたIPTV業界にも波及している。最大手のベライゾン・コミュニケーションズ社は、タイムワーナー系の「TNT」および「TBS」を使った同様の実験を準備している。

このように、米国では“TV Everywhere”が単なる議論のレベルを超え、本格的なサービスへと動き始めた。


──伝送路の多角化か、伝送路離れか

米国のメディア業界は、ウォルト・ディズニー、バイアコム、タイムワーナーなどの大手が映画からテレビ放送までを系列化して牛耳っている。特に、テレビ番組では、Fox、NBC、ABCの大手3社がビデオ・ポータル・サイト“Hulu.com”を構築して、ネット配信を進めている。タイム・ワーナーは、このHuluプロジェクトに参加しているが、一方で“TV Everywhere”は対抗馬の位置にある。

2007年末に実験配信を始めた“Hulu”は最近人気を高めている。たとえば、comScore社の調査によれば“Hulu”は月間3,800万人(2009年7月)の視聴者が利用している。これは業界2位のタイムワーナーケーブルの3,400万顧客を上回る数字(注1)だ。成功の要因は、大手の看板番組がそろっていること、広告付きの無料配信であることだが、人気が高まるにつれ「有料プレミアム・サービスの投入も間近」との噂も流れている。

Huluが成功している限り、Fox、NBC、ABCの大手3社が“TV Everywhere”のプロジェクトに距離をおく可能性は高い。とはいえ、両プロジェクトは、大手メディアがインターネット配信を重視する姿勢を反映している。

こうしたコンテンツ側からの圧力によって、CATVやIPTV、衛星放送がネット配信にも手を広げることになるだろう。いや、数年後にはCATVやIPTVのような専用伝送路の割合が減り、インターネット配信が主流になるかもしれない...とさえ疑いたくなる。


“TV Everywhere”を日本語にすれば「どこでもテレビ」──まるでドラえもんに出てくる便利な道具のようだが、ほんとうに米国のメディアを変える脅威の道具になるかもしれない。


注1)comScore社はCATVの視聴者を積算する上で、6月末の契約者数に米国国勢調査の平均世帯人数を掛け合わせている。

 
【コメント】 ↓ コメント投稿
No.3 2009年10月26日
小池様

さっそくのコメントありがとうございました。
ちなみに、米国の販売店などで日本製品の勢いというのは
いかがな状況でしょうか?

Barbican
No.2 2009年10月26日
Barbicanさん

ご質問の薄型大型テレビは、米国でもよく売れています。こちらは部屋が広いので、そんなに大きいという感じを受けませんが。CEA(米国家電協会)の調査でも、薄型大型テレビは常に、主要な販売品目のひとつになっていますし。逆に、テレビチューナー付きPCは米国では見かけませんね。

小池良次
No.1 2009年10月26日
小池様

>「CATVだけがプレミアム番組を配信する時代ではなく、
>YouTubeや>Hulu、ネット・レンタルなどが十分な番組を
>供給できるようになっている」

こういった状況下、フォーラム交流掲示版「フリートーク」の
「テレビについて」などでも話題になっていますが、

 http://www.ngs-forum.jp/bbs/index.html

米国では薄型大型TV視聴というのはどのような状況なので
しょうか?

(日本では家電販売店に行っても、必ず大型TV+高機能オー
ディオなど、シアター級視聴が提案され、各家庭への大型TVの
普及が進んでいる状況ですが)

Barbican
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