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次世代サービス最前線ブログ 小池良次のシリコンバレー情報通信

ICTフロント・シーンで展開される多様なサービスやテクノロジーを
小池良次がシリコンバレーから探訪していきます。

 

iPhone王国を虎視眈々 〜姿を現すインテル・スマートフォン戦略〜

2009年10月6日

 先日、インテル開発者会議(略称IDF)がサンフランシスコで開催され、同社のスマートフォン戦略が姿を現した。米国ではiPhoneが独走をつづけているが、その前に立ちはだかるのはひょっとしたら、Google社の“Android携帯”ではなく、インテルの“Moblin携帯”かもしれない。


──iPhoneのビジネス・モデルに学ぶ

 2007年6月末に初代iPhoneが発売されてから2年3ヶ月。その累積出荷台数は2,637万8000台(注1)に達し、米国で独占的に販売するAT&Tは1,000万台以上のiPhoneをアクティベートしている。それほど米国におけるiPhoneの人気は高い。

 iPhoneが売れるのは独特のデザインなど様々な理由によるが、ビジネス・モデル的に見ると次の3点が重要だろう。

1) ハードウェア、携帯(iPhone)OS、コンテンツの統合(一体化モデル)
2) コンテンツ、アプリケーション開発環境のオープン化(オープン・エコシステム)
3) 大手キャリアとの独占販売契約(キャリア・チャンネル)

 HTC社の「G1(グーグル携帯)」やRIM社の「BlackBerry Storm」など、大手携帯端末メーカーはiPhoneキラーを目指して新製品を発表してきた。しかし、iPhoneを脅かすようなヒット端末は生まれていない。これはしかたない。先にあげた3大ビジネス・モデルを超えるような端末メーカーはいないからだ。しかし、インテルが進めているスマートフォン戦略は、この3つを克服する初めての携帯電話になるかもしれない。


──iPhoneを超えるモバイル端末は生まれるか

 では、インテルはどのような方法でiPhone市場に入ろうとしているのだろうか。

 インテル携帯戦略は専用マイクロプロセッサー「Atom」と携帯OSの「Moblin」が柱となっている。このAtom開発にインテルは非常に力を入れている。

 携帯電話も含めモバイル端末の命は長時間サクサクと動いてくれることだ。そのためには高速処理と省エネという相反する問題を解決しなければならない。これに対しインテルはマルチ・コア、マルチ・スレッド、ブースターなどの高速化技術をAtomプロセッサーに詰め込んでいる。と同時に、不要なチップ部分には電源を供給しない高度な省エネ技術を導入している。

 もう少し詳しく述べてみよう。私たちがホームページを開くとき、パソコンは最初に送られてくる大量のデータを処理するために大きな情報処理能力を使う。しかし、一端ページを開いてしまえば、ほとんど処理能力はいらず、アイドリング状態にはいる。

 そこでAtomは様々な高速化技術を使って短時間に高い処理能力を発揮するように設計されている。そして仕事が終われば、不要な部分は電源を落として冬眠する。この仕組みを使えば、長時間サクサク動くモバイル端末ができるというわけだ。

 iPhoneは素晴らしい低消費設計だが、ビデオや高速なゲームなどを楽しめば一気にバッテリーがなくなる。常にバッテリー容量を気にしながら使う不便さは克服されていない。来年あたりから投入されてくる最新Atomシリーズの「Moorestown」や「Medfield」では、こうしたiPhoneハードウェアの弱点を十分研究し尽くしている様子がうかがえる。iPhoneを超えるハード端末が生まれるかもしれない。


──マイクロソフトと決別する? インテルのMoblin

 一方、Atomプロセッサーの最先端機能を十分に引き出すために生み出されたのがモバイルOSの「Moblin」だ。昨年の開発者会議でみたMoblin v1は、手のひらパソコン用OSにとどまっていた。しかし、今年のIDFで紹介されたMoblin v2.1は急速に進歩していた。まず、携帯電話として使えるように各種電話機能が整備されている。

 また、iPhoneとの差別化を狙って、まったく新しいユーザー・インターフェースを開発している。イギリスの若手デザイナーがベース・スケッチを描いているが「パソコン画面を小さくする」という意識を徹底的に排除している。つまり、パソコンと同じ画面を楽しめるiPhoneのコンセプトに真っ向から挑戦している。

 では、なぜインテルはマイクロソフトのウィンドウズ・モバイルやノキアのシンビアンなど既存の携帯・モバイルOSを使わなかったのだろうか。

 実は、こうした主流派の携帯OSはインテルが開発しているマルチ・コアやブースター機能といった最新技術に対応できていない。つまりインテルの開発スピードに主流派の携帯OSは遅れを取っているのが現状だ。

 インテルがオープン・ソースのモバイル・リナックスに走ったのは、そうした理由だと筆者は推測している。インテルのMoblinはモバイル・リナックスをベースにAtomの機能を100%引き出す設計となっている。ちなみに、Atomでは画像処理や通信機能などの周辺チップをひとつのパッケージにまとめ上げるSoC(System-on-Chip)技術を使って多様なモバイル端末を短時間で開発しようとしている。これも、なかなか興味深い。

 インテルのAtom+Moblinが「iPhoneを性能面で超えるかもしれない」と感じるのは筆者ばかりではないだろう。少なくともインテルは、それを狙っている。


──よりオープンなWin-Winアプローチ

 では、iPhoneのオープン・エコシステムに対して、インテルはどのような戦略を取ろうとしているのだろうか。

 6万5,000本(2009年7月現在)を超えるiPhoneアプリケーションは、押しつけの携帯端末ではなく、iPhoneをゲーム端末やPDA(個人情報端末)など好きなように作り替えられるパーソナルな端末に変えた。また、そのオープン戦略により一般のプログラマーが、初めて携帯ビジネスで利益を得る道を開いた。その意味で、閉鎖的な携帯電話ビジネスに大きな衝撃を与えた。

 Atom+Moblin戦略でも、インテルはアプリケーション・ストアーの仕組みとして「Moblin Grage」を準備している。ただ、インテルはアプ・ストアーの仕組みを提供するだけで、実際の構築と運営は携帯やモバイル端末を作るディバイス・メーカーがおこなう。

 つまり、ディバイス・メーカーはインテルのチップとオープン・ソースのMoblinを調達してiPhoneのような高性能なスマート携帯を簡単に作ることができる。しかも、アプリケーション管理用のシステムもインテルが提供してくれる。ディバイス・メーカーは、安い労働力の調達と販売に専念すればよいわけだ。これはiPhone以上にオープンなWin-Winモデルといえる。

 ただ、まだ戦略的に不透明な部分もある。

 アメリカでは、iPhone/iPodアプリを開発している企業やプログラマーが、よりオープンなビジネス環境をアップルに求め始めている。たとえば、無料コンピュータ電話の大手SkypeのiPhoneアプリはWi-Fiだけに接続環境を限定されている。技術的には、携帯データを使ったSkypeアプリは可能だが、そうなればiPhone本来の携帯音声契約に悪影響がでることは明らかだ。そこでアップルはWi-Fiだけに接続を限定している。

 また、アプリケーションの販売をアップルが独占していることにも批判がある。何らかの理由でアップルから拒否された場合、iPhone向けアプリケーションの販売はできなくなる。ちなみに競争相手のGoogleが提供するAndroid携帯では、アプリケーションの独自販売を認めている。

 iPhoneは、大手キャリアとの独占販売契約(キャリア・チャンネル)を確保する事で大量の端末販売に成功した。しかし、キャリア・チャンネルを抱え込んだために制約も受けている。

 インテルは、こうした課題について「ディバイスを製造販売する各ベンダーが決めること」との立場をとっている。しかし、実際にトラブルが発生すればインテルも巻き込まれることは間違いない。

◇◇◇

 パソコン黎明期、アップルはハード・ソフト・OSを一体化する戦略で最先端のパソコンを製造販売し、一世を風靡した。それに対し、インテルとマイクロソフトは、ウィンテル(Windows+Intel Architecture)というスタンダード・モデルで戦いを挑み、成功した。

 現在のiPhone/iPodビジネスを見ていると、このパソコン黎明期を思い起こさせる。ただ今回インテルが選んだパートナーは、オープンソースのモバイル・リナックスというところが印象的だ。

 さて3年後、アップルのiPhone王国は健在なのだろうか。


注1: 2009年第2四半期現在、出典はウィキペディア米国後版

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