第30回 2009年7月3日
この夏は、中小企業のIT導入進めるチャンス
■テレワーク導入調査で見えたこと
2007年11月に、政府のIT戦略評価委員会のメンバーだった際に、テレワークの導入実体について調査した。アンケートに回答した786社中、テレワーク導入企業は25社(3.3%)、未導入企業754社(96.7%)と、圧倒的にテレワーク未導入企業が多かった。企業の従業員数別の割合は、100人以下が41%、100人から500人未満が43%、500人以上が14%、その他が2%であり、うち上場企業は6%であった。
この調査では、テレワーク推進に向けて、政府として何ができるかを知るためのもので、調査結果のサマリは図のとおりだ。未導入企業においては、ツールの不足等の個々のさまざまな課題はあったものの、集約すれば、テレワーク導入のメリットが見えていないということであった。要するに、導入の必要性を感じていれば、細かな課題については、解決策を模索するであろうし、そもそも、テレワークに必要なツール等は、既に、さまざまなものが存在しているにもかかわらず、積極的に使われていないことからも、利用者側の意志の問題は大きいと思われる。
この調査において、興味深かったのは、導入済みの企業において認識されているメリットが、業務効率化/コスト削減/ワークライフバランスの観点で高くなっている一方で、有能な人材確保/危機管理等/CSRの観点では、メリットが感じられていないという点である。特に、危機管理という点でのメリットがあまり認識されていなかった点は驚きである。おそらく、実際に危機的状況に遭遇したことがないゆえの反応であると思うが、今年の新型インフルエンザの流行が、その有効性を再考するきっかけになっていてくれればと願っている。
■中小企業のIT活用度による発展格差
筆者は、日ごろ、中小企業の経営についてインタビューを行っているが、小規模企業になればなるほど、ITに対する理解が低い。一方で、小規模企業でありながら、世界的なニッチ市場を捉えているようなところは、そもそも業務の効率化に注力し、ITの活用を積極的に行っているところが多い。
実は、社会変化のスピード化とインターネットの進歩による顧客パワーが増強する今、小さなニッチ企業にとって、大きなチャンスの時代と言える。トップダウンによる速やかな意思決定やニッチゆえのこだわりの製品やサービスの提供が可能であるからだ。
地方スーパーも、日ごろのきめ細かな顧客サービスをITによって、顧客を細分化することで、さらにサービスを向上させているし、地方の土産物屋でも、旅行客の減少に対し、ネットの活用によって、全国の顧客に対して、地域性あふれる情報提供と地方ならではのおせっかいとも言える顧客へのサービスが、ファンを増やしていたりする。ニッチな製造業も同様で、ネットの活用により営業効率を高め、より複雑で独自な部品等の受注に速やかに対応し、収益性を高めているところも多い。また余談だが、こうした企業においては、今まで営業は男性の仕事であったところが、ネット活用によって、女性が営業窓口になったり、顧客情報の編集作業等を女性に依存するところも多く、女性の社会進出のきっかけともなっている。
つまり、多くの中小企業を見ていると、ITの活用の有無が、発展を大きく左右していることがわかるのだが、先のテレワークの調査と同様に、いまだIT活用の有効性を実感している企業が少なく、さまざまな理由をつけて、積極的な導入へと進んでいないところが多い。昨今のクラウドコンピュータ化は、まさに中小企業にとって、低コストかつ専門人材が不要という点からも、IT導入のチャンスであるのだが、特に経営者が高齢の企業では、理解をいただくのが難しいのが現状である。
■新型インフルエンザを機に、IT活用推進を
しかし、今回の新型インフルエンザの流行は、ひとつのチャンスであると考えている。日本では、梅雨入りによる湿度と温度の上昇で、流行に歯止めがかかったが、南半球のオーストラリア等では流行が広がり、WHOは、世界的大流行(パンデミック)を意味する最高度のフェーズ6に上げることを宣言した。つまり、日本が冬を迎えるころには、再び新型インフルエンザが、流行する危険性は十分にあるということを認識しなくてはいけない。この夏こそが、再流行に対する準備をする絶好の機会ではないのだろうか。
春の新型インフルエンザの流行の際にわかった最も厳しい現実は、外出が相当に制限されることである。これは企業にとって厳しい制約となる。特にITの活用が進んでいない中小企業においては、従業員との連絡、取引先との連絡、決済等、日ごろ当たり前に行っていた重要事項が滞る可能性がある。
これらの問題は、自宅でも管理できるグループウェアの導入、外出をせずにも決済できるネットバンキングの導入等、IT活用においては基本中の基本であるシェアウエアの導入で解決できることであるが、これすらも導入されていないところが多いのもまた現実である。しかし、SIにとっては、この程度のコンサルティングは、収益にもならないことなので、積極的に取り組まれることは少ないが、税理士や会計士等中小企業との関係が深いパートナーと協働の上、中小企業への導入サポートを進めることが今、不可欠である。
こうした危機管理をきっかけにして、企業がITの導入のメリットを少しでも実感できれば、次へのステップへの扉が開くはずである。一般的には高度なIT活用技術が進んでいるが、まずは、自宅待機になった際にも対応可能な社内連絡ツールとしてのグループウェアや社内ブログの活用法等の啓蒙が重要である。
新潟の地震の際にも、部品工場の操業停止により、大手の自動車の生産が止まったことは記憶に新しい。中小企業の事業が滞ることは、日本全体の生産の足かせになる可能性は極めて大きいと言える。だからこそ、パンデミックに備えての中小企業のIT活用やテレワークの試験的導入を官民あげて推進する必要がある。
まさに、この夏は、日本にとって、危機管理というキーワードでのIT化の更なる推進のチャンスであると同時に、受注減で苦しむ中小企業の生産性向上への変化の機会であると言え、この機会をどのように捉えるかで、冬以降に大きな格差が生まれてくると思う。
藤沢 久美(シンクタンク・ソフィアバンク 副代表)
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藤沢 久美(ふじさわ くみ) |
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